Sさんは40歳代男性、茶畑で働いておられ、以前から月に一度くらい健康管理の意味で通って来てくださっています。
そのSさんが珍しい症状を昨日、訴えて来られました。左肘のすぐ下あたりが痛く、これが手首から来ているような感じ。それだけではなく、そのスジが上腕にも伸びており、左腕全体がだる重い感じで、非常に不快である、と言われます。
こういう症状は決して珍しいものではなく、よく見かけるものですが、Sさんとしては珍しい。そこで、尋ねてみました。
── 何か左手をよく使うような作業をされているんですか。と私。
── いやあ、別に通常どおりですけど。
── 通常どおりというと、今は普通の事務仕事が中心ですか。
── まあ、そうですね。
といったやりとりの後、取り掛かります。腕の場合の手順がありますので、それを順にやって行きます。
1) 前腕の親指がわにある橈骨を上げる。
2) 寝床体操の5番、つまり前腕の二本の骨を締める操作をする。
3) 下橈尺関節の引っかかりを改善する。
4) 肘の内側、内側上顆と肘頭のあいだの窪みを押してみる。
5) そこに少し痛みがあるので、外側から愉気をする。
6) 小菱形骨のところを愉気して、肩の前を緩める。
7) 腕全体を引っ張りつつ、左側から前に回転させ、肩の前部の脱出を修正する。
・・・というような操法の手順で、少しはよくなったようですが、決定的ではない。何かが足りないようです。
── 左手で何をされたんですか。
── 別に何も・・・。
── 何もせずに、こんな風になるわけないですよ。
── うーん。
ひょっとして左手の親指が硬いのではないか、と考えて、Sさんの親指を触ってみますと、IP関節(親指の先の方の関節)とMP関節(親指の付け根の関節)の間が、どうも硬い。
そうか。これか。さっそくそこをじっと握って愉気をします。異常に硬いというほどではないものの、通常の状態ではない。これを見落としたのがいけなかった。
腕の問題がある時は、親指をよく調べるのは、「基本のキ」であったはずだ。しばらく愉気を続け、これでどうですか、と尋ねると、
── あ、よくなりました、という答え。
── これは、必ず親指を使っていますよ。
── あーそうか。お茶を刈る機械があってね、その機械を動作させるレバーを親指でじっと押さえていたんです。
── なるほど。それですね。
── それが、かなり強い力で押える必要があるんです。
── 腕が悪い時は、親指を調べるのが基本なんですが、それを抜かしていました。
── いつもやっていることなんで、あれが悪かったとは、思いませんでした。
というやりとりの後、その機械の写真をみせてもらうと、かなり大掛かりな機械です。 Sさんが操作されていたのと同じ機械かどうか、定かではありませんが、例えば、次の写真
→ http://www.kawasaki-kiko.co.jp/chaen/pdf/KJ2.pdf
機械の運転台の横についているレバーを押し続けると、お茶の木を刈って行くことができるそうで、「茶刈機」というそうです。
ここまで来て、私の反省点は、基本に忠実ということ。私自身も時々操法テキストを読んで勉強しています。「いいことが書いてあるなあ」と自画自賛で感心しながら。
この場合は、「腕を見る時は、まず親指から」──これです。
これを忘れて遠回りをしてしまいました。でも、これはテキストに書いてなかったな。
筋肉が収縮するのに、「等尺性収縮」というのがあり、これは筋肉の長さが変わらず、力だけがかかるタイプの収縮です。
レバーを同じ位置で押し続けるような動作が、これに当たります。スマホをじっと持っているのも同じことで、筋肉の長さが変化する「等張性収縮」に較べて疲労が少ないわけではないようです。
スマホやタブレットをジッと持っていると腕が疲れてきませんか。どこの筋肉を使っているか、感じてみてください。スマホの場合は、親指を使って文字を打つという動作が加わりますから、さらに疲れがひどいかもしれません。
腕がだるい、腕が痛い、というような症状が出た時は、親指に注意です。筋肉が硬くなっている場所を探して、そこに愉気(反対側の手指を当てて)をしてください。