路地裏の整体術 第808号 2015年6月16日
▼ 顔面痙攣をどうする
右の目がピクピク動く症状の女性Oさんが来られました。「眼瞼痙攣」か「眼瞼ミオキミア」などの病気が考えられますが、目だけでなく周辺の筋肉までが動くので、片側顔面痙攣(へんそくがんめんけいれん)が疑われます。
ウィキペディアから引用すると、
──片側顔面痙攣(hemifacial spasm、へんそくがんめんけいれん)は、片側の顔面がピクピクと痙攣を起こす不随意運動の一つ。半側顔面痙攣と呼ばれることもある。日本神経学会での正式用語は片側顔面攣縮である。
となっています。
様子を拝見していますと、痙攣が起きるたびに、まぶたが垂れ下がったようになって目がふさがり、ものを見るのが不便なだけでなく、容姿にも大きな影響があります。
このような症状の方は時々見かけることがあるものの、それを主訴として来られたのはOさんが初めてです。どうやれば解決するのか、まったく見当がつきません。
ご本人のお話によれば、神経の手術をしないと解決しないと言われたとか。脳を開けて、その辺りを切り刻むのでしょうか。それとも頸の神経を何とかするのでしょうか。詳細は分かりませんが、いずれにしても難しい手術が必要だと言われたわけで、大抵の人は、言われただけでひるんでしまうでしょう。
いずれにしても右側にだけ筋肉の緊張があるわけですから。まずはどんな風に緊張が生じているのか、しばらく観察することにしました。
【観察なくして解決なし】──これが操法の極意というか、操法に取組む場合の要諦です。
Oさんの場合、常に筋肉の運動状態があるわけで、静止状態の筋肉を観察するより遥かに解りやすい。目の下の咬筋、頬筋あたりが目と一緒に動いています。
つまりこれは下の方に緊張があって、それが顔面の筋肉を引っ張っているのではないだろうかと考えられます。原則としてまとめると、【上方の緊張は、下から来ている】ということです。
初回は、あちこち観察することで、時間が来てしまいました。滋賀県から来られているので、何度も来ていただくのは恐縮ですが、止むをえません。
第2回。緊張は脚から来ているという仮説のもとに、観察と操法を進めました。そうすると、下腿の緊張が緩むと、顔面の緊張が緩み、一時的ではありますが、痙攣が止まりました。
ところが、さらに操法を追加して、緊張を緩めようとすると、痙攣が再開してしまいました。下の緊張と痙攣が完全に並行しているわけでなく、下の緊張が、いろいろ寄り集まって顔面の緊張を作りだしているのでは、と思われる状態だったといえます。
私は「これでおおよその見通しがつきましたから、大丈夫ですよ。次回さらにやってみましょう。」というようなことを言って帰っていただきました。
第3回。今回は、脚の続きをするのでなく、なぜか、手をやってみようと思いました。なぜかは自分でも判然としないのですが、Oさんの目の表情を見ている内に、これは手から来ているのではないか、とふと思ったのでしょう。
このあたりのところは、言わく言いがたいところで、説明しようとしても簡単に説明することができない。これまでの経験の集積で、【何となく】そう思うということがあるものです。
実はこの【何となく】の構造は、大切なポイントなんではないか、と思っているのですが、いずれにしても文章で説明しにくい。話して説明するのも困難です。
データを分析して、、というようなことを言う人がありますが、これはデータの分析で出てくるような問題ではない。データの分析にかからないところに、実は大切なポイントが隠れているように感じています。いつの日か、【何となく】の構造を明らかにしてみたいと思っています。佚斎樗山『天狗芸術論』の名が浮かびます。
── 一切の芸術、放下づかひ、茶碗回しにいたるまで、事の修練によって
上手をなすといへども、其奇妙をなすはみな気なり。天地の大なる、日月の
明らかなる、四時の運行寒暑の往来して万物の生殺をなすもの、みな陰陽の
変化に過ぎず、其妙用は言説の尽す所にあらず。(『天狗芸術論』巻二)
顔面痙攣のある女性Oさん。顔面の筋肉が引っ張られている様子だったので、2回目までは脚のどこかが引っ張っているという想定のもとに、脚を調べ操法していました。そして3回め。
脚の続きではなく、手を操法してみようと思った。右側に緊張がありますから、問題があるとすれば右手です。Oさんの右手の指を触ってみると薬指、中指辺りが硬い。
この【硬い】という感覚も説明するのが難しい。あくまで手の感覚なので、操者が自分の経験で「硬い」と感じる感覚を養成するしかありません。どこかで線を引いて、ここまでは柔らかい、ここから硬いと明確に区別できるものでもない。
「これは硬いのですか、柔らかいのですか」と尋ねる人がいるけれど、そんなのを教えることなど不可能です。もし、そんなことを私が教えるとすれば、私の感じ方が、その人の感覚の基準になってしまうでしょう。その人が自分の感覚で、どう感じるかが大切ですから、教えることなどできないし、教えたくない。
指が硬いと、その指が上方を引っ張っている事実をこれまで何度も見てきました。例えば、突き指を直すと肩が楽になる。前腕の拘縮をとると首が楽になる、などの事実です。
そこで、この硬い指をどうすればよいか。オルゴン・リングを使ってみることにしました。
オルゴン・リングに対して否定的な見解があることは承知しています。安価な物ではありませんので、どうしても金銭がからんでくるのは事実ですし、それが嫌という人がいても不思議ではない。
しかし使ってみれば、確かに効果があるのは事実ですし、手をかざしてみれば、だれでもそこから何かのエネルギーが出ていることを感じ取れるでしょう。百均で売っている指圧棒のようなものでこする方法もあるものの、効果が歴然と違う。
私は今までのところ、オルゴン・リング本来の使い方はしていません。硬くなっているところを緩める程度の用途にしか使っていませんので、専門の方々から見れば、もったいないと言われるかもしれない。しかし本来の用途に使うには時間がかかる。これがネックになっています。
それはさておき、オルゴン・リングでOさんの硬くなった指をこすってみました。指だけでなく、中手骨もこすってみた。手の平側も擦りました。すると、顔面の反応が緩くなってきた。やがて、痙攣が収まりました。
ちょっと一休み。
また再開してはまずいので、安定させておこうと、追加して指を緩めておこうとすると、痙攣が再開してしまった。指の緊張=痙攣という単純な図式ではないと思われます。
しかし、ここまで来ると、単純ではないものの、指の緊張と痙攣の間に明らかな関連があることが分かりましたから、もう焦ることはありません。ゆっくり全体を整えて行くうち、再び痙攣がなくなりました。
念のため、Oさんには、もう一度来ていただいて、安定させようという意見を差し出したのですが、Oさんはこれで様子を見ることにするということだったので、終わることになりました。
その後、今日に至るまで、痙攣が再開したという知らせを受けていませんので、これでOKだったのかなと思っています。
この件をまとめて考えると【顔面に異常がある時は、手の指を見よ】ということになるかと感じました。ただ、脚も無関係ではないようです。