1037 よく分からない症状

路地裏の整体術 第1037号  ’18年5月25日
▼よく分からない症状

有名な病院や治療院を次々と回ってみても、どうにもならないという方がかなりの数いらっしゃると、つねづね感じています。

つまり、どうにも病名が付けられない。病名が付けられないだけでなく、「〇〇症候群」として括ることさえできない。

はやく言えば、どこへ行っても相手にしてもらえない人、そういう人が結構多いと感じます。

さまざまな検査をしても、何も出て来ない、検査結果から判断すると、どこも悪くない、という人々です。

けれど本人からすれば、奇妙な症状があって困っているのだから、「どこも悪くない」などと言われたくないのが本当のところです。

そのような人が来られました。かりに中年男性Qさんとしておきましょう。
(Qという名の主人公が出て来る有名な小説がありましたが、その人とは何の関係もありません)

Qさんは、ゲップが出るので困っている、というのです。ゲップそのものに困っているというより、喉か気管が詰まった感じになって、ゲップが出ればスッキリするけれど、うまく出ない時が困る、苦しい、と言われるのでした。

もちろん私には、このような症状の方を見た経験が、これまでにありません。どうしていいか分からないのは、他所の病院や治療院と変わりません。

最初は、お断りしようかとも思いました。しかしあちこち経巡ったのちに来られたのですから、私がお断りしてしまえば、今後もQさんの苦しみが続くことになるでしょう。

どんなに難しい症状であっても、何とかなるものであれば、何とかしたいという気持ちは持ち続けているつもりです。

具体的に、どうしたらいいか分からない症状を相手に、どうするのか。

私の方針は一つ。

まず、その人のバランスを見ます。何かの症状を持っている人は、かならず何かのねじれやゆがみを抱えています。それを見つけ出します。何か一つ見つかれば、それを修正してみる。

修正した上で、再びバランスを観察します。すると、前とバランスが変化しています。これだけで終わりということもないわけではありません。しかしそんなに簡単に済んでしまうケースは珍しい。

むしろ同じようなプロセスを繰り返すことが多い。そういう場合が大半です。

そうしたプロセスを繰り返して終点に到達するのが多くの場合です。そのプロセスの数が少ない方が結果がよいと言えるでしょう。

つまり手数(てかず)が多いほど、下手ということになります。これでもか、あれでもか、とゴチャゴチャやった挙句に、まだよくならない、と言うのは、下手の極みとしかいいようがない。

といいつつ、私も疲れてくると、そういうことをやって迷惑をかけていることがあります。ゴチャゴチャやって疲れ果ててくる。内心、下手の極みだな、と思いながら、首うなだれることがあります。

そういうことを繰り返して来たのが私の歴史で、お世辞にも褒められたものではありません。

ただ、そういうことに意味がないか、と言われれば 【転んでもただ起きない】 という原則を持ち続ければよいと思います。

言い換えると、【難しい症状ほど学ぶことが多い】、これです。うまく行かなければ、かならずそこにうまくいかない原因が潜んでいる。それを見つけ出せばいいわけです。すぐには思いつかず、後になって、ああそうだったか、と思い当たることもあります。

こうやって私は来られたお客様からいろんなことを学んで来ました。私には師匠がいませんが、数多くのお客様方が師匠であると言って、間違いないと思っています。

さてQさんの話に戻りましょう。

Qさんはゲップが出なくて苦しい時、背中を柱にこすりつけるとゲップが出て楽になるのだそうです。あるいは、孫の手のようなもので背中をこすってもいいという。

これは一つのヒントになりますね。

そのこすり付けている箇所に何か問題が潜んでいるはずです。

Qさんの背中を触ってみると、胸椎上部の左二側(ひだりにそく、1側とか2側というのは、背骨から指何本分の隔たりかを表す言い方です)あたりが硬くなっています。これ自体がゲップや息苦しさの直接の原因でないとしても、何らかの関係があるはずだと思われました。

一週間後。少しましになったと言われるので、やれやれ、一安心。詰まって苦しいということが少なくなったという。

そこで今度も同じような方針で、操法を繰り返しました。

そして昨日、第3回目です。大部楽になってきたそうです。それは良かった。でも、まだまだだ。孫の手がないので、長い靴べらでこすってもらうと、やはりゲップが出ます。

よくよく見ると、骨盤が捻れています。気づかないわけではなかったつもりですが、ちゃんと
修正していませんでした。そこで、いつもの交差共鳴法(手の甲を左右で逆方向に撫でる)でやってみました。すると、左二側の硬いのが少しましになってきました。

長靴べらでもう一度こすると、かなりよくなって来たようです。

あとは、鼻がつまる感じがあると言われるので、足の第3趾の付け根を愉気すると、楽になって来られた様子です。この操法は、身体の中心部に異常がある時に、よく効く操法です。鼻の穴の大きさなども揃って来る。

Qさんの話によると、左二側に硬いところがあるのは子どもの頃から、とのことですから、骨盤の捻れというのは、数十年単位で続くことがあるしつこい捻れだと思っていなければなりません。

骨盤に捻れがあると、背骨そのものも捻れてきます。これが身体各部の捻れを引き起こしていると考えられるので、【骨盤の捻れは、どんな症状であれ、修正して置くことが必要】です。

仙骨の倒れを修正するときにも、骨盤の捻れを先にしておくと、修正が楽です。

というわけで、【骨盤の捻れは、最優先で取り組む必要のある操法だ】と言っておきたいと思います。

1030 腰椎の弯曲が直る

第1030号  2018年4月28日
▼ 腰椎の弯曲が直る

坐骨結節(坐った時に座布団や台座に当たっているお尻の骨) を使って腰椎の弯曲を正す方法について書きます。

坐骨結節は、大腿二頭筋の腱のうち一本が付着していて、下肢のエネルギーの流れの、それこそ「結節」点になっているところと思われます。

「結節」という名称が付けられている場所は、一般に骨の尖っているところで、恥骨結節、オトガイ結節などと呼ばれているのは、解剖図をご覧になれば一目瞭然です。

そこで、次のようなことを考えてみました。

腰椎は、仙骨が傾斜した時に、弯曲してしまいます。逆に言えば、腰椎が弯曲している人は、仙骨が傾斜しているとも言えます。そうすると、脚長が違って(脚長が違うことを鬼の首をとったように強調する人がいますが、それは疑問)きたり、脊柱起立筋(背骨の両側に上下に通っている太いスジ)の緊張に左右差が出てきたり、さまざまな不調の原因になります。

ですから、仙骨の傾斜は、なるべくなら避けたい。以前からお話ししているように、仙骨の傾斜は、両手首の茎状突起に愉気することで、簡単に正常化することが可能です。

仙骨の傾斜を正しておいて、次に弯曲の対策にかかります。弯曲がきつすぎる人の場合は、逆にした方がいいかもしれません。そこのところは、研究課題です。

どうやって弯曲に取り組むのか。

まず、腰椎がどちら側に弯曲しているのかを確かめます。左に弯曲していると仮定しましょう。事実、左に弯曲している人の方が多いでしょう。側弯には逆S字タイプが多いということ
です。

左に弯曲があるとして、操者は受者の伏臥した左側に坐ります。操者は自分の左手の親指の内側を弯曲部の外側にあてがいます。そうして少しばかり押し加減にする。

次に操者は右手を受者の坐骨結節のところにあてがいます。どの指でも結構です。そのままその両手で愉気を続けます。

これだけです。坐骨結節には、エネルギーの結節という意味があるらしく、これで弯曲が改善してきます。背骨を一本ずつ愉気する必要はありません。

(胸椎上部の弯曲はどうすればよいのか)。それは烏口突起を使って同様にします。つまり、胸椎上部の弯曲側に親指をあてがい、反対側の指を烏口突起にあてがうようにします。

今回は少しばかり詳しく書きすぎました。解剖用語に慣れていらっしゃらない読者には、却って分かりにくくなってしまったかもしれません。解剖図を広げてお考えになってみてください。

1021 癌細胞に感謝する

1021号  2018年3月10日
▼ 癌細胞に感謝する

イギリス在住のNさんから次のようなメールをいただきました。お許しをいただいて引用します。読みやすくするため、改行などは原文と少し違っています。

癌細胞に語りかけることを続けて癌が消えたという報告です。どんな病気にも関わることだと思います。病気は、自分の生き方の誤りを教えてくれるもの、無闇に嫌うのでなく、病気に感謝してみようというご提案でもあります。

──日本で鍼灸あんま師の資格を取った後、イギリス人と結婚し英国に住んで18年。3人の子供の子育てもほぼ終わり、これからはやっと自由に自分のやりたい事ができる人生の段階となりました。今は自宅でのんびりと知り合いにだけ指圧をしています。

私は、3年前の定期検診で小さな乳癌を発見され、即通常の癌治療コースを勧められました。ずっと健康を自負していたので晴天の霹靂。

でも瞑想により癌細胞は私の気付いていない間違った生き方を教えてくれるために出来たのだと分かり、全ての治療を拒否し感謝して毎日癌細胞に話しかけました。自分の体の他の硬い所や痛い所にも話しかけながら揉んでやりました。

いろんな気付きがあり段々と私のかたくなな考え方が溶けていき、同時に癌も消えて無くなりました。医者も首を傾げていました。

体の状態はまさにその人の生き様の歴史。私は指圧で人の体に触ることが大好きです….

その人の生き様を開けっ広げに触らせてもらう、というおこがましい立場にある事に恐縮しながらも。何かの縁で触れ合う事になったその方のエネルギー。どのエネルギーも、活き活きとあるべき方向に動き続けて欲しいです。私が詰まっているものを動かしてその動きを助けることができたら、それが何よりも嬉しいです。──

(以下略)

1000 胸肋関節

第1000号 2017年11月5日
▼ 胸肋関節

本号は第1000号。我ながら呆(あき)れるほどのしつこさというか、よくもこれだけという感じです。第0号は、2006年1月でした。

そこで1000号記念に、今回は出血大サービス。この操法で助かる人がずいぶんいるはずです。

胸骨という骨は説明が必要でしょうか。胸の真ん中にある骨。両側に肋骨がくっついています。ここも骨のつなぎ目であるかぎり、やはり関節で、胸肋(きょうろく)関節と呼ばれます。

で、この関節に不具合のある人が、実は多いらしい。特に猫背傾向になっている人、四十肩の人、五十肩の人ではここんところに不具合を持っている人が多いように思われます。

もちろん六十肩とか、七十肩という人(そういう人がいるとして)も同じことです。先日は、私は八十肩だ、といばっていた人がいました。

肋骨は複数ありますから、胸肋関節は一つだけではありません。肋骨は詳しく見れば12本ありますので、胸肋関節も12あるのか、といえば、そうではなく、下の方の肋骨はまとめて癒合していますので、実際は6つ~7つほど。

区別する必要があれば、右1番の胸肋関節、左3番の胸肋関節、などと呼べばよろしい。あるいは右第1胸肋関節、左第3胸肋関節などと呼べばいいでしょう。

ちなみに、第1番は鎖骨のすぐ下にありますので、間違えないように。

で不具合があると、どのような症状が出るか。胸肋関節のところに圧痛が発生するわけです。ご自分で押さえてみれば分かります。

肋骨という骨は、鳥かごのように胸郭を取り巻いていますから、前にずれがあれば、当然うしろにもずれがあるはずで、背骨の胸椎にも異常があって、それが猫背を形成しています。

このような圧痛が出ている場合、どうすれば解消できるのか。カンタンです。

まず、あなたの掌(てのひら)をみてください。その真中、やや凹んでいるあたり。左手の掌心(てのひらの中央)に右手の人差し指の指先をおいて、中指の付け根に向けてサッとまっすぐに撫でてください。それだけです。1度でダメなら、何度か繰り返せばよろしい。

両手とも同様にやってください。うまく行けば胸肋関節の圧痛がすべて解消するはずです。なぜか。ここが胸骨の共鳴点だからです。

うまく行かなかった場合は、どうするか。別の方法がありますが、強くやると別の問題が出る場合がありますので、うまく行かない人は、朱鯨亭まで足をお運びください。

さて、五十肩で苦しんでいるあなた。今日から、これで少し楽になるはずです。完全に楽になるには、どうすればいいか、とお尋ねでしょうか。

五十肩という症状は全身症状ですから、一箇所を変化させれば解決するというほど単純ではありません。例えば足からも引っ張られています。もちろん腕からも。それを一つ一つ解決して行くことが必要です。

ただ一発解法もありそうです。そのアイデアは今あたためているところですので、いずれ2000号記念くらいで発表することにいたしましょうか。1000号まで12年かかっていますから、あと12年待っていただくことが必要かもしれません。

959 心臓の下垂

2017年2月27日

── くっきりした素晴らしい運命線ですね。

操法の最中にお客様の掌が上向きになっている時、手相をちらっと見てそんな風にいうと、嫌な顔をする人はいません。手相の話は皆さん関心が高いと見えて、しっかり聞いてくださいます。

手相というと、生命線だとか感情線だとか、「線」が関心の中心になることが多いけれど、周りにある「丘」にも重要な意味があるようです。

親指の付け根の「金星丘」、薬指の付け根の「太陽丘」、その他いろいろ名前が付けられていますから、興味のある方は、こちらでどうぞ。http://syunneta.com/fuusuieki/2tesou/

さて、その「金星丘」のお話です。親指の付け根のふっくらとした丘。ここを押さえてみると、という話は以前に書きましたね。右手の金星丘を押さえて痛みを感じる時は、肝臓が下垂しているという話を書きました。[928号] です。

では左手の金星丘が痛い時は、どうなのか、という疑問が出て当然ですが、実際にメールで尋ねて来られたのは、お一人だけでした。

答えは「心臓の下垂」です。こういう話は聞いたことがないという人が大部分で、大抵の方が怪訝な表情をされるのですが、内臓下垂は珍しいことではなく、重力の自然法則から言っても、当然ありうることのようです。

心臓が下垂すると、どうなるか。不整脈が出ることが多いように感じます。逆にいうと、不整脈で困っている人は、左手の金星丘を押さえて圧痛を感じるかどうか試してみるのがよい、ということです。

不整脈と言われてもピンと来ないなら、動悸を時々感じるということです。時々、何もしていないのに心臓がドキドキするという人がいますが、そういう人は不整脈を起こしているわけです。(不整脈にもいろいろ種類がある、というような医学的な話は、いまは割愛します)。

左手の金星丘を押さえて圧痛があった人は、自分の心臓に掌を当てて、少し上向きに押し上げるつもりで、じっとしていてください。時間にして数分。心臓の位置は、左寄りと思われていますが、押さえるのは胸の中央でよろしい。

その後で、左手の金星丘を押さえてみる。見事に圧痛が消えていることでしょう。まだ残っているようであれば、もうしばらく同じことを続けてみればよい。

これで動悸がおさまる人もいるのではないか、と思います。

右手の金星丘に圧痛がある人は、肝臓に問題がある可能性がある、と言うのは [928号] に書いたことです。

じゃあ、胃下垂はどうなのか、という質問が出ても不思議ではありません。私にもそういう疑問が浮かびました。

以上の心臓と肝臓の件は教えてもらったことでしたが、ここから先は私が見つけたことです。
(次号につづく)

904 不整脈といびきの関係

第904号 2016年7月1日
▼ 不整脈といびきの関係

友人のMさんは、60代の男性。動脈瘤が数か所あって、先日手術を受けたばかりです。現状報告のメールをもらったので、次のような返信を書きました。

(以下、引用)
重篤なことにならずに済んで、よかった。ひとつ、気がつきにくい情報を。

梶本修身(大阪市大教授)
『すべての疲労は脳が原因』
集英社新書 (2016/4)

この本に睡眠時無呼吸症候群(SAS)についての記事があり、次のように書かれている。

──アメリカで22年にわたって行われた大規模研究の「ウィスコンシン睡眠コホート研究」では、SASがあると高血圧の発症リスクがおよそ1.4倍から2.9倍になることがわかりました。(中略)
不整脈の一種「心房細動」の発生率は、SASを合併している場合は、そうでない場合に比べて2倍以上も高く、特に夜間の「心房細動」が起こる頻度はSASを合併していると4倍以上も高くなると報告されています。そして重度のSASを合併していると、脳卒中のリスクはそうでない人の3.3倍に達するのです。(101ページ)

ということで、夜間に「いびき」をかいていないかどうか。それが目安になる。野口整体系の次の本に「いびき」の直し方が書いてあり、参考になり、事実、効果がある。要点は、胸椎上部に硬いところがあり、4番・5番あたりにかるく掌を当てて愉気をすると、数回繰り返すだけで「いびき」が消えるという。時間にして一回数分。

うえだまゆみ
『体にやさしい整体術』
(PARCO出版、1600円+税)

(以上、私のメールから引用)

このような症状の人は多いと思われます。高血圧、不整脈、いびきなどの症状がある人は、試してみるのがいいと思います。何しろカンタンですから。

895 斜頸とは何か

第895号 2016年5月7日
▼  斜頸とは何か

首がいつも左に傾いている。心配だというメールをいただきました。7歳の女子です。仮にRさんとしておきます。

こういう症状には 「斜頸」 という病名が付けられるのでしょうが、でもちょっと待ってもらいたい。本当にこれは 「斜頸」 という病気なのかどうか。

このメールを頂戴した時に、それは背骨が曲がっているだけでしょう、という意味の返信をしました。

そして操法の当日。Rさんが入室して来られたのを見ると、なるほど首が左に傾いています。お母さんとしては、大丈夫なのかと心配なのは無理もありません。まして整形外科で、将来 「顔が歪んできます」 と言われたとなれば、なおさら。

これは背骨が曲がっているに違いないと目星をつけていましたから、さっそく椅子に坐ってもらうと、案の定、腰椎が左に曲がっています。胸椎の歪みはほとんどない様子なので、整形外科では 「側弯」 とは言われなかったらしい。

うつぶせになってもらいました。「うつぶせ」 というと今は 「死語」 になっているのか、「あおむけ」 と 「うつぶせ」 が、どちらがどちらかと迷う人が多い。でもいじわるなので、私は常にこの言葉を使い続けています。ところがRさんは、即座に 「うつぶせ」 に寝てくれました。うんうん、あなたは頭のいい子だ。

まず、背骨の弯曲があれば、尾骨の歪みがあると見ていいでしょう。ですから尾骨を触って歪みを確認し、「お尻を打ったことはありませんか」 とお母さんに訊いてみるのですが、記憶にない、とのことでした。

(いま中学生の時から側弯を修正するのに通ってくれている高校生女子がいますが、その人の場合は、はっきりと尾骨を打つ事故に会っています。側弯のきつい例では尾骨の異常があると睨んだ方がよさそうに思えます。)

尾骨に対しては黒川操法(尾骨の歪んでいない方を3回、3呼吸間隔でなで上げる操法)を使いました。これで、背骨全体の緊張が少し緩んだはずです。

その次は仙骨、腰椎、胸椎と背骨全体の歪みを少しずつ修正して行きました。それから、両腕。数日前のことで、いまとなっては、どのような順序で操法したか、正確には覚えていませんが、足首にも問題があり、右足首、特に距骨を触りました。

そうして椅子に坐ってもらうと、心なしか首の傾きが改善しているように見えます。「どうですか。少しまっすぐになって来たのではありませんか」 というと、付き添って来られていたおばあちゃんが、「そうですね。少し傾きがましになっていますね」 と言われる。

こう言われたことの暗示効果もあったと思いますが、Rさんは首の動きがよくなっているのを感じたのでしょう。さらに一層、首がまっすぐになってきました。

大人の斜頸の場合は、こう簡単に行かないでしょうが、Rさんの場合は背骨の硬化が進んでいなかったと思われます。

腰椎が左に弯曲する理由は、骨盤が右向きに傾いていることです。お母さんは、なぜこんなことになったのか、その原因を尋ねられたが、Rさんが小さい頃から横すわりの癖があったのではないでしょうか。1回横すわりしたからといって、腰椎が弯曲してくるというわけではありませんが、横すわりの癖が何度も続くとやがて背骨の周辺組織が硬くなって、弯曲を起こします。これは子ども限らず大人でも同じことです。

ですから横すわりの癖が強い人、つまり、右横座りと、左横座りとで、座りやすさが異なる人は、腰椎が歪んでしまっています。腰椎が弯曲を起こしている側に首を傾ける癖があることでしょう。いつも傾けているわけでなければ、斜頸とは言われないので、本人も気づきませんし、周囲の人たちも気づきません。

というわけで、斜頸という病気、異状な状態があるわけではなく、骨盤の傾き、腰椎の弯曲が首の傾きという状態を生んでいるだけのことです。

病名を与えられると不安になってしまう。という心理が確かにありますから、病名を付けるというのは、罪作りなのではないでしょうか。まして 「将来顔が歪んできます」 などと言われるのは。

このケースも、腰椎が歪んでいるだけだから、姿勢をよくすれば簡単に治りますよ、と言ってもらえれば不安になることもなかったでしょうね。

寝床体操の1番をするといいですよ、とお話して帰っていただきました。ずっと表情の硬かったRさんが、帰りには 「ニコっ」 と笑ってくれたのがうれしい。

888 鎖骨になぜ左右差があるのか

第888 2016年4月1日
▼ 鎖骨になぜ左右差があるのか

鎖骨は人体の中で、左右対称になっている典型的な場所として、捉えている人が多いのではないでしょうか。確かに水着姿の女性の鎖骨など美しいと感じる人もいるでしょう。

ところが、よく調べてみると、さほどでもないことが分かります。見かけ上、左右が対称であるように見えても、胸鎖関節を押さえてみると、圧痛を訴える人が多い。

さらに鎖骨の部分をはだけて、よくよくみると、胸鎖関節の位置が左右で違っていることも多い。

【胸鎖関節とは、喉の下にグリグリが二つありますね。それです。胸の中央にある胸骨と、鎖骨のつなぎ目なので、胸鎖関節と呼ばれている】

先日、私自身の胸鎖関節が左右でえらく違って来ていることに気づきました。触って見なくても、関節のところに違和感があります。

同時に、背中の胸椎のどこかが痛む。えらいことになって来たと思って、どうしようどうしようと少し焦りぎみになった。胸椎を通常の方法で整えてみても、痛みが変わりません。

その前日のこと。『共鳴法教本』を使って講義をしていたので、そこに胸鎖関節の直し方が書いてあったのを思い出しました。書いた本人が自分で読んで役に立つこともある。

【『共鳴法教本』についてはHP参照。→http://shugeitei.com/stext.html

鎖骨と対応する場所は普通に考えれば中指の付け根、手のひら側ということになります。確かにそのあたりでも効果が出る場合もありますが、そこより中指の第二関節の横紋のところ(つまり手の平側)、をクルッと撫でると良い。

なぜ、こんな場所が鎖骨と対応しているのか。それは頚椎、胸椎の関係から考えれば、ここの場所が頚椎・胸椎のつなぎ目の裏側にあたるからでしょう。

で、この操法をやってみました。すると、驚いたことに、鎖骨が正常になっただけでなく、背中の痛みも消えてしまった。今に至るまで痛みが出ていません。

共鳴法の操法には強い効果の出るものが色々ありますが、これほどの操法は私の記憶の限りでは初めてです。

以上の経験を総括してみると、鎖骨の左右差は、胸椎の歪みと連結していることが分かる。つまり胸椎のどこかがゆがんで、それに伴って鎖骨の左右差が出てくるわけです。考えてみれば、当然のことですが、当然のことも経験してみないと、なかなか分からないものです。

言い換えると、あなたの左右の胸鎖関節のどちらかに圧痛があれば、あなたの胸椎のどこかが歪んでいるといえる。それが中指の横紋をクルクルっと撫でただけで解決するといえるわけです。

からだほぐし教室で、この操法をやってみた時に、Fさんが、クルクルと撫でた瞬間、頭にピキッと来た、とおっしゃっていました。

これは想像ですが、鎖骨のような横長の骨は互いに連動することがあるらしい。横長の骨とは何か。足の舟状骨、膝の半月板、鎖骨、そして頭の中の蝶形骨です。これらは連動することがあるらしい。

ですから、中指の横紋をクルクルっと撫でる操法で、実は蝶形骨も整ってしまう可能性があるだろうと思います。

昨日、緑内障の方の足首を整えたところ、目が楽になったとおっしゃっていましたが、これは舟状骨が整ったために、蝶形骨が動いた結果かもしれません。

横長の骨が互いにどのように連なっているかは、興味深い研究課題です。と同時に、足を整えることによる効果が、どこまであるか、これも深い研究課題だと思っています。【これについては、いずれまた書きたいですね】

人体の不思議は尽きることがありません。

887 第一肋骨の変異が起きると、どうなるか?

第887 2016年3月14日
▼ 第一肋骨の変位が起きると、どうなるか?

最近の「復習会」は、おかげで盛況で、昨日は12人のご参加がありました。
→ http://shugeitei.com/review2.html

参加予定の方々の中にお1人欠席がありましたから、その方が参加されると、ほぼ満席状態です。朱鯨亭2階は寒さをはねのけて熱気むんむん。暖房のために、私は頭がぼおっとしていました。

参加されていたNさんから、腕神経叢のあたりが痛いというご質問です。(腕神経叢は、鎖骨の上の窪みのあたりにあり、押すと何事もなくても嫌な感覚を感じる場所です。ですから普通、ここを押すのはご法度です)

このあたりが痛いとすれば、神経の損傷なども可能性としてはあるでしょうが、そんなに深刻な症状とは思えません。

ただ、ここに痛みがあるという訴えは最近の記憶にありません。どうするか。思案のしどころです。こういうケースは、類似するケースを探ってみることだ。

この辺りで痛みが出るケースといえば、第一肋骨(肋骨1番)の変位です。この辺りは筋肉でいうと、斜角筋群があるところで、斜角筋の緊張があると、第一肋骨が引っ張られて変位することは考えられます。

ちなみに 「第一肋骨」 とは、一番上の肋骨。多くの肋骨の中で、もっとも短く目立たないです。胸椎1番から左右両側に出ているのが第一肋骨です。

第一肋骨の変位を確かめるには、どうすればよいか。この骨が他の骨と繋がっている関節に圧痛が出ていないかどうかを調べれば分かります。

背中側は、胸椎1番と繋がり、胸側は、胸骨と繋がっていますので、その両方の関節周辺を調べてみれば分かるはずです。胸椎1番の横を押えてみると、大変硬くなっていて、少し違和感があるようです。

(話しが分かりにくいという方は、解剖図などを参照しながら読んでください)

胸の中央にある胸骨との繋がりである胸肋関節は、のどの前にある2つのぐりぐり=すなわち胸鎖関節の左右斜め下の骨を押さえてみれば分かります。どうも、ここにも違和感があるらしい。

ですから、これで第一肋骨の変位で、ほぼ決まりでしょう。

そこで、まず胸椎1番の2側(2側とは、指2本分椎骨から離れたところ)両側に愉気をします。そして具合を聞くと、少し楽になっているとのこと。

次は胸肋関節です。ここにも愉気を続けます。胸椎と胸骨の双方に愉気することも可能ですが、これは首を締めてしまう格好になって、少しまずい。

これで左側に違和感が残ったものの、全体によくなったようです。

以上の教訓は、分からない症状を聞いた時は【類似例で考える】。これですね。

肩こりとか、首こりとかの症状で、うまく解決しない時は、第一肋骨の変位があるかもしれないので、調べてみてください。

850 操法にある即興的な要素

路地裏の整体術 第850号 2015年11月6日
▼ 操法にある即興的な要素

昨日の集中初級講座でのできごと。参加者のTさんが急に激しいセキこみです。どうされたのか、と尋ねてみますと、この時期にのどがおかしくて、よくセキこむことがある、と言われます。

セキを止めるには、どうすればよいか。普通に考えれば呼吸器の問題ですから、胸椎の4番~6番あたりを調整すればいいことになります。しかし、この時は、「毒出しツボ療法」 の考え方を採用してみようと思いました。

つまり、セキが出るのは、胸の上部にある打撲痕が原因だと考えるわけです。そこで、上胸部を緩めるという考え方です。「毒出し」 の方法に従うなら、上胸部の打撲痕を指圧棒などで擦ることになりますが、女性のTさんに対して、それはやりにくいので、代わりに足の甲に愉気してみようと考えました。足の甲に愉気すると、上胸部が緩むことは、これまでに何度も経験しているからではありますが、かなりひねくれた判断、まがりくねった判断をしたことになります。

なぜそういう判断が出て来たのか、と聞かれてもうまく答えられない。誰でもうまく答えが出て来ないけれどある判断をしてしまうことは、あるのではないでしょうか。

というか判断というものが、そういうものだ、とも言えます。手近な例を挙げてみると、ご飯を食べに行くのに、和食なのか、イタリアンなのか、はたまた中華なのか、どうして決めるのか、と聞かれても、「何となく」 とでも答えるしかないでしょう。

「何となく」というような曖昧なことで操法を判断していいのか、と詰め寄られると困ってしまうのは、こういうことがあるからです。言い換えれば操法というものには、本質的に即興的な要素があります。ジャズ奏者が、なぜそんな音が出てくるのか、と聞かれても、うまく答えられないでしょう。ともかく、その時の感覚で、そういう音が出てきた、その音には、調和がある、と感じる、というのが奏者の言い分です。ピアノもドラムもベースも、そう感じて、それぞれの音を出している。

ここのところは、理屈で説明できないでしょう。理屈では説明できなくても、それでうまく行けば、操法として成功していることになります。ですが、こういう時の呼吸を教えてほしいと言われても、うまく教えることは不可能です。即興の感覚は、操者(奏者)が自分自身で磨くしかない。

さてそんな判断をして、私はTさんの足元に坐り、足首に手を当てて、愉気を続けました。細かくみると、親指を内くるぶしの下、中指を外くるぶしの下、掌を甲の部分に当てて、じっとしているだけです。これでセキが止まる自信があるわけではありません。ともかくやってみるしかない。でも、何となくセキが止まる気がする。

そうすること数分。ころはよしと愉気を止めて、自席に戻りました。Tさんは楽になりましたと言われるけれど、こういう時のこうした発言は好意的なものになりがちで、私はあまり信用していません。その後、どんな反応が出るかをじっくりと観察することが必要です。でも、見たところ、頭部・頸部・上胸部の続き方を見ると、楽になっているように感じられました。

この日、講座が終わってからPCにTさんからのメールが届いていて、そこに 「セキがピタッと止まり驚きました」 とありましたから、これでうまく行ったことになるのでしょう。ああ、よかったと私は胸を撫で下ろしたという次第。

842 季肋操法

路地裏の整体術 第842号 2015年10月2日
▼ 季肋操法

「季肋部」 という表現があります。肋骨の季(すえ)、つまり肋骨の下という意味です。肝臓が悪いと、季肋部に痛みが出る、というような言い方をします。

ここでは、肋骨の直下という意味よりも、文字通り肋骨そのものの下部という意味で使いたいと思います。言い換えれば下部の肋骨ということになります。

この辺りに違和感があったり、肋骨の下の方が前に突出していたり、そういう人がいらっしゃるでしょう。特に肋骨の左下が何だか膨れている、という人が多いかもしれません。

肋骨が飛び出して来るとすれば、肋骨は背骨にくっついているわけですから、背骨に何かの歪みがあるに違いありません。それが肋骨の歪みとなって違和感を生んでいるのかもしれません。

ですから背骨を正常化することが大切だとはいうものの、本人にとってはすぐにこの違和感や痛みから逃げたいに違いない。どうすればいいでしょうか。

掌を使います。肋骨操法では掌の縦一文字を使いますから、今度は横一文字を使ったらどうか、そう考えました。感情線の起点から生命線の起点に向けて、横一文字にこすってください。たったそれだけのことで、大きく状態が変わると思います。

何にでもツッコミを入れるのが好きな人は、生命線から始めて、感情線に向うのではダメですか、と言うかもしれません。それでもいいと思いますが、どちからに決めておかないと、効果の検証ができませんので、とりあえず上のように決めて、やってみたわけです。そうしたら効果が上がった。

もちろん、いつものように左右のバランスを取るために、両手とも同じ操法をすることが大切です。

肋骨操法は、何度も繰り返してはいけませんが、この操法は、繰り返しOKです。季肋部が凸になっている人などは、少し時間をおいて繰り返せば、効果が出てくる、つまり凸になっていた肋骨が次第に凹んでくることでしょう。

(余談) 初めから生命線と感情線が一つにつながっている人がいます。これは手相の方面では 「ますかけ」 といいますね。調べてみると、人の上に立つ人に多いらしい。そうでなくても、自分の主義主張を強く押し通す人であるらしい。歴史上の人物でいうと、家康とか信長とかは 「ますかけ」 だったいいますが、本当でしょうか。誰が調べたのか。ま、神話のような話しでしょう。

「ますかけ線」 の持ち主は、この線を小指側から親指側へ横一文字にこすればよろしい。