1029 正坐ができない人は

第1029号  2018年4月26日
▼ 正坐ができない人は

正坐ができないで悩んでいる女性が多いですね。もちろん、そういう人は膝の痛みもあって、さぞかし苦しいことでしょう。

で、正坐ができない人に、どこが痛いですか、と問いかけてみると、ほとんど例外なく、膝の裏側と答えます。

正坐ができない人は、ほとんどお皿が硬くなっていますので、その辺りが突っ張ると答えるかと思えば、そういう人は少なく、ほとんど裏側です。

太ももの裏側からふくら脛にかけてが痛いと訴える人が多い。これは何なのだろうか。というのが永年の疑問でした。

もちろん筋肉の問題とみれば、太ももの大腿二頭筋と、ふくらはぎの腓腹筋との問題だと思われます。つまり、これらの筋肉がつっぱる。でも、どうすれば解決できるのかが分かりませんでした。

というのが、私の発想法は、もっぱら骨の歪みをたどるという原則で動いているので、筋肉の歪みは苦手です。筋肉を揉んだりしたくない。

この二本の筋肉を一群の筋肉と見れば、その両端はどこにあるのだろうか。

上は、坐骨結節(つまり大腿二頭筋の片方が付着しているところです)。坐骨結節とは坐っている時にお尻が座布団にあたっているところの骨の出っ張り。

下はアキレス腱の付着部(アキレス腱が踵骨に付着しているところです)。これは、アキレス腱とかかとの境目といえば分かりやすいでしょうか。

この二つが両端ということになる。

そこで、この2点に愉気をしてみようと、考えました。で、うつ伏せになってもらって、やってみると、正坐できないと嘆いていた女性が、見事に正坐できるようになりました。もちろん、筋肉が硬化している程度の違いがあるので、誰でもこれで正坐できるようになるとは言いません。

膝の歪みを改善しないことには、正坐できるようになるわけはありません。

でも正坐できない人ができるようになるメドが立ったのは大きいと思います。それと、もう一つ、この両端の2点の重要性が分かったこと、これが大きい。

例えば、腰椎が弯曲している人がいます。というより、誰でも少々は腰椎が弯曲していると言った方がいいかもしれません。この弯曲を直そうとすると、普通には、ややこしいことをするわけですが、坐骨結節を使えば簡単にできます(これに関しては別に書きます)。

つまりこの坐骨結節は、腕の場合の烏口突起のような役割を持っているようです。

それから下肢の裏側に異常がある時は、アキレス腱の付着部を使えば簡単です。

で、何よりも高齢の女性が正坐できることの精神的な影響は計り知れないと思います。

正坐できないことが原因となって、落ち込んでしまっている人が多いですから、ぜひとも元気を出してほしいと思っております。

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982 末端に注目(1)

第982号 2017年7月23日
▼ 末端に注目(1)

70代女性Hさん。膝の状態がよくないと来られました。ところが、その症状が普通の膝痛とは違っています。膝が痛いというと、膝の内側とか、お皿の下とかが痛いと言われることが多い。

Hさんは、膝の裏がつっぱって痛いという。特に、椅子に坐った状態から立ち上がる時に膝の裏が突っ張って痛いのだそうです。

裏が痛いという場合は、脛骨が大腿骨に大して前に出ていることが多いものですが、Hさんの膝を調べて見ても、脛骨が前に出ている様子はありません。

どんな症状でも、このように標準的なパターンからずれている場合は、原因の解明が難しいものです。私の場合、最初に徹底的に原因を究明する作業をします。そうでないと、無闇に「症状を追いかけ」て、結果がでないという情けないことになってしまうからです。

「徹底的に原因を究明する」といっても、いつもうまくいくとは限りません。最後の最後まで、何が原因か分からずじまいということもあります。こういう時に、「症状だけを追いかけて」みてもうまく行きません。

よくどこかの整体へ行って具合が悪くなった、どこそこの整骨院へ行ったけれど、よくならなかった、と言って来られる人がいらっしゃいますが、施術の様子を聞いてみると、大抵は「症状だけを追いかけ」て失敗していることがわかります。

ということは、施術者にとって、「症状を追いかける」誘惑から逃れるのが難しいということを意味しているでしょう。この人の症状は、どこがどうなっているのか難しいという場合、つい症状を追いかけたら何とかなると思ってしまうのですね。

「症状を追いかける」といえば、操法のプロは、どういうことか経験があるので、よく分かると思いますが、施術経験のない人には想像するのが難しいかもしれません。

そこで少し説明しておきましょう。例えば腰が痛いという。

これは仙腸関節が緩んでいるのだろうと見当をつけて、骨法などで仙腸関節を締めてみます。ところがまだ真ん中のこの辺りが痛いという。そうすると仙骨が歪んでいるのか、と考えて仙骨の歪みを正そうとしてみる。すると、真ん中の痛みは引いてきたけれど、今度は腰骨の右上が痛いという。・・・

という具合で、その時その時で、痛みのあるところを次々施術して行く。これが「症状を追いかける」と私がいう意味です。

こうなると、とどのつまりあちこち触りまくって、どうにもならない。これでもか、これでもか、という最悪のパターンに嵌ってしまうわけです。

さて、話を戻して。Hさんの膝のことでした。おっと、今は夏休みで操法はしていないはずじゃないんですか。と訊いて来られた方がいたので、釈明しておきますが、原則は夏休みなんです。けれど、腰が痛くて動けません、どんな時間でも行きますので、何とか、などと言って来られる人があるので、そうも言っておられません。時々開けています。

でHさんの膝。いつもの膝痛のパターンに従って最初やっていたのですが、どうも感覚的に違う感じがする。これではダメだ。じゃあどうする。一つの定石は「末端に注目」。これです。うまく行かないときは定石に戻るというのは、碁や将棋だけではありません。

膝が痛い、しかも裏が突っ張るという場合、末端はどこか。脚の裏側の末端で問題を起こしやすいのは、どこかを考えればいいわけです。答えは踵。

踵の骨つまり踵骨はよくズレを起こしやすい場所で、起きた時に踵が痛いという症状を経験している人は多いでしょう。踵のところの踵骨と、その上に乗っかっている距骨との関節、つまり距踵関節(距骨下関節)が前後にズレている人は多い。踵骨が後ろにズレ、距骨が前にズレている状態になっています。

この状態になると、踵の後ろを押すと痛い。場所を詳しくいうと、アキレス腱の下(付着部)です。この辺りが痛む。Hさんのこの場所をぐっと押してみますと、予想通り、「痛い」そうです。

この状態を改善する方法について。仰臥してもらい、操者は受け手の足首を上からぐっと押さえ、足の中足骨の辺りをつかんで、足首を前後に動かす。すると、上から押さえているので、床からの力が踵骨を上に押し返す格好になっています。

この状態で足首を前後に動かすと、踵骨は下から押し返されて正しい位置に戻っていく。直接法ですが、これが威力を発揮します。しばらくゴキゴキという動きを続けて、先ほどの痛みがどうなっているかを確かめますと、かなり痛みがとれたという。そこで、もう少し同じことを続けて、痛みが完全になくなるようにします。

そうして朱鯨亭の傾いた階段(階段は傾いているのが当たり前だ、などと余計な半畳を入れないでもらいたい。朱鯨亭の階段はおんぼろで横に傾いているんですから)をそろそろ上がり降りしてもらった。「痛くない」。よし。

というわけで、くどい説明に付き合っていただいて、ありがとうございました。これで一件落着ですな。少し解説を付け加えると、Hさんの踵が少しズレていた。そのため、踵周辺に筋肉や靱帯の拘縮が起きて、それが下腿の後ろを経て、膝の裏(ひかがみ)の辺りを引っ張っていたわけです。これが立ち上がる時に痛みを出していた。

という次第で、「末端に注目」という定石が役に立った例でした。次回も、この定石にあたる例をご紹介しようと思っています。お楽しみに。

975 腓骨頭

第975号 2017年6月11日
▼ 腓骨頭

両脚の側面にある腓骨の上端にある膨らみを「腓骨頭」(ひこつとう、またはひこっとう)と呼びます。ご自分の膝の少し下、両側の外側面を押さえてみてください。小さな骨のでっぱりがありますね。お灸を据える人なら「足三里」として知っている点の少し外側です。

この腓骨頭が左右バランスを取る上で大切なポイントであると十分に認識されていないように感じますので、それについて書いておきたいと思います。

例えば、「坐骨神経痛」(と呼ばれる症状)の人を考えてみましょう。その人の腓骨頭を触ってみますと、必ず、患側(症状のある側)の脚の腓骨頭が飛び出しています。(両方とも悪いという人もたまにはいますから、そういう場合は、両方が同じように飛び出しているかもしれません)。

仮に左側が飛び出していたとしましょう。その場合、左の腓骨頭が飛び出しているのは、左側の腓骨と脛骨が離れていると考えられます。まとめて言えば、下腿の脛腓間が開いているわけです。

ですから、これを拇指操法で締めることは可能です。ただ、「坐骨神経痛もどき」(「坐骨神経痛」という病名そのものに問題があるので、今後は、この呼び方にします)の人を拇指操法で対処しようとすると、症状が悪化することがあります。ですから、こういう場合には拇指操法は避けた方が賢明です。ではどうすればよいか。

腓骨頭を微圧で、締めたらいいんです。具体的には、片手を腓骨頭の外側に当てがい、もう片方の手を大腿の内側に当てます。そうして微圧を掛け続けます。

こうして腓骨頭が締まってきますと、全身の左右バランスが変ってきます。例えば左の腓骨頭を締めていくと、左右バランスが右に移動します。別の言い方をすれば重心が右に移動します。

操法というものは、色々ありますが、その優劣を問うなら、一つの操法で全身のバランスが整うような操法が優れているといえるでしょう。

これでもか、これでもか、と色々やって初めてバランスが取れる操法より、さっとやるだけで簡単に全身が変化する操法の方が、受け手の身体の負担が少ないことには、だれしも納得されるはずです。操者の手間も少なくて済む。

その意味で、受け手の左右バランスがどちらに偏っているかをよく調べ、それを変化させることができれば、一つの操法で、色々な症状がさっと消えることも十分にありえます。

こんな観点から考えれば、腓骨頭を内に入れる操法は、簡単で効果の高い操法であるということができると考えられます。もちろん自分で(セルフで)やることも可能です。

901 肘のカンタン自己操法

第901号 2016年6月8日
▼  肘のカンタン自己操法

肘に問題を抱えている人が多いですねえ。というと、私は何ともない、という反論が返って来そうです。

ところが、肘の先の肘鉄(肘頭)の周辺をぐっと押さえられると、あいた、となる人が多い。自分では痛みがないつもりでも、押さえられると痛い。こういう人は肩や膝にも問題を抱えていることが多いものです。

肘鉄の周辺をあちこち押さえてみてください。どこも痛いところはありませんか。

もし痛ければ、どうして治すか。カンタンな方法があって、抜群によく効きますから試してみてください。

まず、痛みがあった肘頭を反対の掌で包む。次に痛くない方の肘頭も痛みのある側の掌で同様にします。つまり腕組みを、肘と掌でするわけです。

後はこのまま数分の間じっとしている。それだけです。

またまた「数分」とは、どれくらいですか、などと初歩的な質問をする人がいるといけないので、言っておきますが、数分というのは目安で、当然、人により、体の状況により、違います。2分で止めて痛みが取れていなければ、もっと続ければいいだけのことです。

あまりカンタンすぎて、信じられない。そうでしょう。でも、やってみればわかります。

肩が悪い人、膝が悪い人にお勧めです。

ただし、この操法をいくら続けても痛みが取れない人は、症状が深刻化しているわけで、そういう人は、ただちに朱鯨亭に駆け込んでください。

「肘のカンタン自己操法」について、その効果を知らせてくれた方が複数あり、ご紹介しておきます。

●大阪府在住のMさん

先日、腰痛で来られた時に、「友人に教えたら、1分もしないうちに効果があったみたいですよ」と。そして、もう一人の人に勧めたら、肘だけでなく、腰まで治ったようです」とのことでした。

●静岡県在住のOさん

丁度良いタイミングで、妻が肩と膝と腰が痛いと言ってきましたので、早速、肘の操法を試してみましたところ、おっ!肩も膝も腰も良くなった! とお褒めの言葉を頂きました。

というわけで、この操法(具体的には、前号を参照してください)は、膝や腰にも効果があるようです。

肘を治すと膝が治るのは、昔から言い習わされていることで、特に珍しくありません。ですから、膝が痛くて困っている人は、この操法を繰り返し行なって肘周辺の痛みを治しておくと、膝にもよい効果があるに違いありません。

ですが、腰が治るのは、どのような理由からでしょうか。肘を治すと、肩の動きが改善します。ということは、肩から背中にかけての影響も変化するということです。背中の状態が変われば腰が変わるというのは、操法をしている人なら、いつも経験している現象でしょう。

こんなふうに、肘が変わると腰も変わります。人体には、このような連動性があちこちに観察できますから、連動制の体系をとらえることは、操法に取り組む人の大きな課題であると思います。

880 複合症状【3】

第880号 2016年2月1日
▼ 複合症状【3】

【承前】一週間後、Aさんが来られた。「痛くなった」と言われるのではないか、
とこちらはひやひやものですが、開口一番が、こうだった。

──夜中にうずいて眠れないということはなくなりました。

ということは、胸肋関節のズレが解決したということです。

やれやれ。「ホッと胸をなでおろす」というのは、こんな時。ひどい肩の痛みは、肘関節と胸肋関節の二原因による複合症状だったわけです。

こういうことがあるから操法は難しい。ここでも、「なぜ」という質問に答えるのはさらに難しい。なぜ、こんなことになっているのか。二原因のあいだに必然的なつながりがあるのかどうか。これはAさんの生活を詳細に検討してみなければ判明しないでしょう。

でも、なぜ過去の例のように激痛が出ることはなかったのか。おそらく、その人の感受性による違いです。同じ操法であっても、人により時期により、その反応は違います。

一般論として言えば、「正體術」の高橋迪雄が書いているように、比較的柔らかな女性や子どもでは、強い操法を避けなければならない。それに対して頑健な男性や身体の硬い成人では少々強い操法でも大丈夫なことがある。そういうことでしょう。

という次第で、Aさんの場合は強い操法が正解であった、ということになります。しかしこれは事後に言えることで、やはり普通は強い操法を避け、緩やかな操法を採用した方が危険が少ない。

よく整骨院などで、グッと力をかけて押されたので、おかしくなったと言って来る人があります。そういうことは、くれぐれも避けなければなりません。Aさんの場合、いわば結果オーライといえますが、Aさんの身体は頑健なものだったのでしょう。

さて、Aさんの症状はまだすべて解決してはいません。肘と膝が残っています。この先、どうなるか、お知らせするに足る情報が含まれていれば、続きを書いてみたいと思っています。

879 複合症状【2】

第879号 2016年1月31日
▼ 複合症状【2】

【承前】寝た時に、肩がズキズキ痛むというAさん。尾骨の処理で背骨がまっすぐになったのに、肩が一向によくならない。さて、どうしたらよいか。

肩の高さが違う場合に、まず第一に調べるべきは、腕のうしろにある伸筋の上腕三頭筋です。肩の高さが違う人は、高い側の上腕三頭筋が硬くなっています。

これを、操者の好みの方法で柔らかにしてやれば、肩の高さは揃ってくる。だがAさんは、肩の痛みが強いために、上腕三頭筋が痛いかと尋ねられても、何が何だか分からないらしい。大して痛みを感じるほどではない、ということでしょう。

しきりに「この辺りが痛い」と腕の上の方を押えるだけで、何がどうなっているのかよく分かりません。そうすると、次に調べる候補は肘ですね。肘頭の周辺に圧痛があるかどうか。

ところが、肘も肩の痛みとくらべれば、大したことではないらしく、むにゃむにゃで終わりです。こうなると、こちらとしては打つ手がなくなってくる。操者にとっては苦しい局面。指を調べてみても、何ともない。

どこが痛いのかよく分からない人は難しい。何が難しいかといえば、こちらは症状を手がかりにして、次の一手を考えているからです。「むにゃむにゃ」では一手を考えようがないわけです。

こういう時に、こちらの体勢を立て直すには、どうすればいいか。方向転換。これですね。こういう時は。とりあえず「むにゃむにゃ」というところは置いておく。そうして、新しい方向の探求に向うわけです。そのうちに、さきほどの方も道が開けてくるものです。

すみません。このあたりは完全に操法をする人向けの話になっていますね。自分の症状を自分でなんとかしようと考えている方々には、興味のない話かもしれません。でも、自分でやる場合も、操者と受け手が同一人であるというだけで、実は同じことだと私は思っています。時に自分でやる場合でも方向転換が必要なことがある。

方向転換しても、いずれ道が開けてくるのは、全身がつながっているからですね。

で、この場合、どこに方向転換したか。肩が痛いというだけではなくて、胸の上部が痛いと言っておられたので、そこを見てみようと。胸が痛いというのは、肋骨の変位があるからです。それ以外に、肋骨にひびが入っているケースもありますが、Aさんの場合は、そういう軽い痛みとは違っています。ひびはまず考えなくてよい。

そうすると、ありうるのは、胸肋(きょうろく)関節のズレです。胸の中央に縦に存在している胸骨と、肋骨とのつなぎ目。それが胸肋関節です。ですから、一つではなく、肋骨の数だけあります。

痛みの場所から見当をつけて、3番の肋骨と胸骨との関節をぐっと押さえてみた。すると、「痛い!」と強い反応。ここに間違いありません。ということはAさんの肩の痛みの正体は、腕から来ているものと、胸肋関節のズレから来ている部分とが合しているから、分かりにくく、本人にとっては辛い症状になっていると思われます。

そこで、この胸肋関節の調整にかかります。右腕全体を、当該の胸肋関節の延長上に持ってきます。そしてグッと腕を引く。一度やっても、改善したという声がないので、もう一度ひっぱりました。この日は、これで終わりです。書いてみればこれだけのことで、何だ短いというようなものですが、やっている当人にとっては、長丁場です。

こういう複合症状を持っている人の場合、痛みが消えたかどうか尋ねてみても、よく分からない場合がある。そうすると、これでよくなっただろうという想定のもとに、終わりにしなければなりません。

ところが昔の話になりますが、胸肋関節のずれていた人を調整したら、翌日、激痛になったというケースがありました。ひょっとしてAさんの胸が今ごろさらに痛くなっていて、今晩あたり電話がかかってくるのではないかと、気が気ではない。あんな強い調整法を採るべきではなかったかと反省しきり。(続く)

878 複合症状【1】

第878号 2016年1月28日
▼ 複合症状【1】

複数の症状を抱えて苦しんでいる人が多いですね。例えば、腰痛があって、首が痛くて、呼吸が浅くて、頭痛がする、という具合です。次第にこのような人たちが増えてきているようにも感じられます。というより、単一の症状だけで朱鯨亭を訪れる人は少数で、大抵の人が複数の症状をかかえて来られる。

もちろん、こんな人たちにマニュアル的な方法は通用しません。一つ一つの症状がばらばらに存在しているのではなく、全体として関連しあっているからです。

昨日のお客様、かりにAさん(70歳代、女性)としておきましょう。Aさんが訴えて来られたのは、右の膝痛、右腕の痛み、右肩の痛みでした。腰もすこし痛いとおっしゃっていたように思います。

中でも、胸の痛みが腕の痛みと合わさって、肩の周辺が夜ねている時にズキズキする。十分に眠れない。ということですから、不眠の症状もあることになります。

肩が痛くて眠れないという症状そのものは、珍しいことではありません。例えば五十肩の人には、そういう人が多い。でも腕を動かしてもらうと、腕が上がるのは確かで、五十肩の症状ではない。

まず背もたれのない椅子に坐ってもらって、後ろから観察します。背骨が直線でなく弯曲し、左肩が高く、右肩が低くなっています。あくまで一般論ですが、尾骨に問題がある人が、この種の背骨の人には多い。

尾骨の先端がどちらかへ曲がっているんです。曲がっているだけでなく、先端が硬く丸まって、周辺が硬く変形していることが多い。これが曲者です。この尾骨のために、そちら側が背中にかけて硬くなり、下から引っ張っています。

ために背骨がそちらの方へ弯曲する結果になっているわけです。骨盤も傾いていることが多いけれど、それよりも背骨全体が傾いていることの方が、あちこちに大きな影響を与えています。

「お尻を打ったことがあるでしょう」と言いながら、尾骨を調べてみます。このセリフは、これからあなたのお尻を触りますよ、という合図にもなっています。事実、Aさんの尾骨を触ってみると、確かに硬く固まって右に曲がっていました。

この尾骨をどう処理するか。それは一つの眼目でもありますが、ここのところにコツがあって、ここでは手の加減などがうまく伝えられないので、興味のある人は「からだほぐし教室」または「復習講座」に参加してください。この春の講座(関東を含めて)でも、この方法を詳しく取り上げることになると思います。

さて、尾骨をうまく処理できれば、背骨は黙っていても、ほぼ真直ぐになってくれます。それは我ながらほれぼれするほど。背骨の調整など簡単、と鼻唄の一つも出てきそうな勢い。

ところがAさんの症状には変化がありません。尾骨は確かに全身に大きく影響していることが確かめられたけれど、肩の痛みは相変わらずというわけです。
(この項、つづく)